東京地方裁判所 昭和40年(ワ)1743号 判決
以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。
〔判決理由〕(本件実用新案の構成)
二 本件考案が原告らの主張する(イ)(ロ)(ハ)(ニ)の四つの要件によつて構成される書庫の抽出に関するものであることは、当事者間に争いがない。
ところで、原告らは本件考案の重要な要件は両側板を省略したことと中央に仕切板を設置したことにある旨主張し、被告は両側板を省略したことと底板を断面谷形の形状にしたことが考案の主要点である旨反論しているが、<証拠>によると、つぎの事実が認められる。
本件考案の考案者である訴外竜野富夫は、戸籍簿、土地家屋台帳等の相当大きく、かつ重量のある書類を奥行の深い書庫に格納しようとするとき、従来の箱型抽出の両側板が書類の探索や出し入れの障害となつているので、この両側板を除去して両側方から書類の探索や出し入れのできる抽出を考え出した。しかし、両側板を除去したならば、底板上にある書類が抽出の抜き差しによる振動のため外側にはみ出して書庫の内面に引つかかつたり、或いは側方に脱落することになるので、脱落防止の手段が是非とも必要であつた。そこで、本件考案においては、まず底板の中央に仕切板を垂直に突破して両側から書類を書架のように立てかけられるようにした上、底板の側方を高くし中央に向けて低くなる傾斜面をもつた断面谷形とすることによつて、底板上の書類は底板の傾斜に従つて仕切板にもたれかかるようにし、抽出の抜き差しによる振動によつても外側にはみ出したり側方に脱落することがないようにした。
してみれば、本件考案においては、底板の中央に仕切板を突設することと、断面谷形の底板を形成することとは、両側板を省略することと相関連し、いずれも本件考案の必須の要件をなすものといわねばならない。
原告らは抽出の抜き差しによる運動はもつぱら前後方向に生ずるから、底板の形状の持つ意味はさして大きいものではないと主張する。しかし、抽出の抜き差しによる振動は単に前後方向にのみ生ずるとは限らず、左右の側方に対しても生ずることは避けられないから、側板を廃止した場合には、他方脱落を防止する手段をつけ加えなければ、実施可能な考案として完成しないものといえよう。したがつて、原告らの主張には賛成し難い。
(被告製品)
三 被告製品が<中略>原告ら主張の(a)、(b)、(c)の構造を備えていることは当事者間に争いがない。
(本件実用新案と被告製品との対比)
四 そこで、被告製品を本件実用新案と対比してみると、本件考案も被告製品もともに書庫の抽出に関するものであり、被告製品の(b)、(c)の構造が本件考案の(ロ)、(ハ)の要件を満たすものであることは当事者間に争いがない。
問題となるのは、被告製品の(a)の構造が本件考案の(イ)および(ニ)の要件を満たしているかどうかであるが、被告製品の底板が水平状であるのに対して、本件考案の底板は両側を高くし、中央に向けて低くなるように傾斜させ断面谷形を形成している点においてその構造に差異のあることは明らかである。
原告らは被告製品の両側の突片も底板の一部であつてこの部分が高くなつており、底板そのものが中央の低い部分に相当し断面は谷形であると主張するけれども、前記甲第四号証によれば、本件考案においては書類の選択出し入れに両側板が障害になるのでそれを除去したことがその要点の一となつていることが明らかである。被告製品における底板の両側にある突片は書類の選択出し入れに際して障害となることは、いうまでもないから、これを底板の一部とみるのはとうてい無理であるといわなければならない。
つぎに、原告らは両側に低い突片を取り付けた底板を有する被告製品は本件考案における両側板を省略した断面谷形の底板と均等のものであると主張する。本件考案における断面谷形を形成した底板と被告製品の両側に突片のある水平状の底板とは、いずれも抽出の抜差に際して書類が外側にはみ出すことを防止するという同一の作用効果を果すことは、異論をさしはさむ余地がない。しかし、底板の傾斜と書類の自重とを利用して書類を内側に傾け仕切板によりかからせて書類の脱落防止を図る本件考案のものと、突片によつて書類の下部を係止して脱落防止を図る被告製品のものとを比べれば、両者は脱落防止の態様、方法において異なつたものということができ、両者が技術手段として実質的に同一のものとみることはできない。原告らの主張は採用しない。
以上の理由により、被告製品は本件考案の(イ)の要件を欠いたものであつて、本件考案の技術的範囲に属しないものといわなければならない。(古関敏正 吉井参也 小酒礼)